牧田の知財メモ

牧田の知財メモ






投稿日:2024年6月30日

【法改正】特許の非公開制度等が施行



経済安全保障推進法が成立し、不正競争防止・特許法・実用新案法・意匠法・商標法・工業所有権特例法が改正されて、施行されました。
内容は多岐にわたりますが、牧田の注目ポイントは以下の通りです。

・安全保障案件の特許出願は非公開・外国出願禁止になる(経済安全保障推進法65条等)。
 新規発明公開と引き替えに一定期間独占できるというのが特許制度の根幹なのですが、近年の国際情勢に鑑みて安全保障の確保に必要な特許が非公開になります。
 非公開になる特許は、IPC(国際分類)で特定技術分野か否かを一次審査され、最終的には内閣府が内容を審査して保全決定します。
 実務的には、この審査にひっかかるような案件は、勝手に外国出願(PCT含む)してはいけないという点が、影響大ですね(法78条)。
 微妙な案件は、まず日本国特許庁に通常の特許出願をした方が良さそうです。
 また、全ての特許出願はIPCが決定するまでの間は、優先権証明書(DASコード)が得られないというのも、実務に影響大です。

・デジタル空間でも権利行使が可能になる。
 商品形態模倣行為(不競2条1項3号等)の規制範囲に、メタバース等のデジタル空間が加わりました。
 現実空間の商品・ファッション等を模倣したものをデジタル空間で勝手に使ったりするのもNGと明確化されています。

・商標法に同意制度が設けられる(商4等)。
 これまで人の氏名をブランド名として商標権にしたいと思っても、事実上困難でした(電話帳にある同姓同名全員から承諾)。
 今後は、創業者やデザイナーなどの氏名も、一定の知名度・氏名との相当関連性・不正目的がないこと等を条件に、登録可能になりました。


特許庁(R5改正解説書)  : https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/kaisetu/2023/2023-51kaisetsu.html
経産省(不競法等R5改正) : https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/kaisei_recent.html
特許庁(特許出願非公開制度): https://www.jpo.go.jp/system/patent/shutugan/hikokai/index.html
内閣府(経済安全保障推進法): https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/suishinhou/suishinhou.html



投稿日:2024年6月4日

【裁定請求事件】iPS特許の裁定請求事件が和解決着



公益のための強制実施権をめぐる裁定請求という珍しい事件がありました。

請求人は株式会社ビジョンケア(元理研研究者の橋氏)等で、理化学研究所・大阪大学・ヘリオス社(住友ファーマ)に対して
特許第6518878号「網膜色素上皮細胞の製造方法」の実施を許諾するよう求めた裁定事件です。
結論としては、自由診療における自家iPS細胞由来網膜色素上皮細胞については権利行使しない(許諾する)、との和解に至りました(2024年5月30日)。

強制実施権というと、教科書的には習うけれども一度も目にすることはない規定の一つでした。
最近では、パンデミックのときに先進国のワクチン特許に対して、発動するのではないかと言われてましたが、
国際機関と特許権者が協力して、途上国へも供給することになったのは記憶に新しいですね。

公益のための通常実施権の裁定制度(特93条)は、公共の利益のために特許発明を実施する必要がある場合には、
まず当事者が協議を行い、整わなかった場合に経済産業大臣が裁定を行うという仕組みになっています。
(本規定は、公益性を判断すること等から大臣マターと法定されています。)

本件は「裁定請求2021-1」として、工業所有権審議会発明実施部会と工業所有権審議会総会において審議されてきました。
答申の内容は非公開ですが、和解経緯書によれば「当事者間の自主的的な協議により解決を図るのが望ましい」として、
清水節氏(工業所有権審議会の部会長・弁護士・弁理士)のもとで当事者協議が行われ、和解に至ったようです。

裁定では、大阪大学は意見なしと答申しましたが、ヘリオス社(住友ファーマ)が却下/棄却を求めていることからも、
理研出身の橋氏が率いるビジョンケアvs住友ファーマ社(臨床研究中)の構図が伺えますね。
今回のように特許権が共有の場合、実施許諾をするには、権利者全員の許諾が必要となることに注意が必要です(特73条)。

特許第6518878号:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2015-541641/10/ja
和解契約書:https://www.healios.co.jp/pdf/20240522_1.pdf
和解の経緯:https://www.healios.co.jp/pdf/20240522_2.pdf
臨床試験 :https://www.healios.co.jp/pdf/20240522_3.pdf
経産大臣会見:https://www.meti.go.jp/speeches/kaiken/2024/20240531001.html
特許庁発表:https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/kogyo-shoyu/award2021-1.html



投稿日:2024年5月19日

【裁判例紹介】 AIは発明者になれない(東京地裁)



AIのDABUSがしたAI発明が国際出願され、日本の特許庁は発明者が自然人ではないとして出願却下した事案です。
これは世界的に問題提起をしているDABUS事件(人工発明者プロジェクト)の、日本の地裁判断です。
欧米では最高裁まで争われていますが、概ね同様の判断で統一されつつあります。
なお、特許の審決は知財高裁で審理されますが、出願却下の行政処分に対する不服申立は東京地裁から審理されます。

ポイント:
・AI発明は保護されるか。AIは発明者として保護されるか。
・発明とは、自然人により生み出されるものと規定している(知的財産基本法2条1項)。
・AIは法人格を有するものではないから、特29条1項の「発明をした者」は、特許を受ける権利の帰属主体にはなり得ないAIではなく、自然人をいう。
・我が国で立法論としてAI発明に関する検討を行うことが期待される。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/981/092981_hanrei.pdf
令和5(行ウ)5001 出願却下処分取消請求事件 特許権 行政訴訟(令和6年5月16日 東京地方裁判所)

https://patentscope2.wipo.int/search/ja/detail.jsf?docId=WO2020079499
国際公開 WO2020079499 - FOOD CONTAINER AND DEVICES AND METHODS FOR ATTRACTING ENHANCED ATTENTION
出願人 THALER, Stephen L. [US]/[US]
発明者 DABUS, The invention was autonomously generated by an artificial intelligence



投稿日:2024年5月12日

【意匠登録例】ドーナツにも意匠権



ミスタードーナツ(ダスキン)のドーナツが意匠登録されていました。
意匠権というと、自動車のデザイン等のイメージがありますが、食品も物品の形状等として登録することができます。

登録公報:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/DE/JP-2021-018904/30/ja
登録番号:1710971号
意匠権者:株式会社ダスキン
物品名 :ドーナツ
(関連意匠:意匠登録1711021号)



投稿日:2024年5月3日

【裁判例紹介】 新聞記事の社内共用は著作権侵害



つくばエクスプレス(首都圏新都市鉄道株式会社:一審被告)が、日経新聞(株式会社日本経済新聞社:一審原告)の記事の一部(当社関連記事など)を
社内イントラネットにアップロードしたことが著作権侵害とされました。

ポイント:
・一部の人しか閲覧できない社内イントラネットであっても、著作物を無断でアップロードすると、複製権(著21条)・公衆送信権(著23条)の侵害行為にあたる。
・新聞記事の内容は、著作物(著2条1項1号)に当たり、事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道(著10条2項)には当たらない。
・法の不知を理由として故意過失は免れ得ない。
・損害額は、著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著114条3項)として、記事1件当たり5,000円とする。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/145/092145_hanrei.pdf
令和5(ネ)10008 損害賠償請求控訴事件  著作権・民事 令和5年6月8日判決
(2024.4.25 上告却下により確定)



投稿日:2024年4月21日

特許権・意匠権・商標権・著作権 とは



「特許権」とは、発明に対して与えられる独占排他権です。
特許権者は、権利を侵害する者に対して、侵害行為の差し止め、損害賠償の請求、ライセンス交渉等ができます。
権利の存続期間は、出願日から原則20年です。

「意匠権」とは、物や画像等のデザインに対して与えられる独占排他権です。
意匠権者は、権利を侵害する者に対して、侵害行為の差し止め、損害賠償の請求、ライセンス交渉等ができます。
権利の存続期間は、出願日から25年です。

「商標権」とは、商品又は役務(サービス)について使用する商標に対して与えられる独占排他権です。
商標権者は、権利を侵害する者に対して、侵害行為の差し止め、損害賠償の請求、ライセンス交渉等ができます。
権利の存続期間は10年ですが、申請により何度でも更新することができます。

「著作権」とは、著作物(思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの)を保護するための権利です。
著作権は創作と同時に発生する権利で、著作財産権・著作者人格権・著作隣接権に分けて考えることができます。
権利の存続期間は、原則として著作者の死後70年です。



投稿日:2024年3月1日

日本弁理士会関西会の「三会による大学生を対象とした専門家講座」において、関西大学で講義を行いました。



日  時: 2023年11月25日(土)午前10時40分〜午後2時30分
     (2時限目:午前10時40分〜12時10分、3時限目:午後1時〜2時30分)
場  所: 関西大学 千里山キャンパス
主  催: 日本弁理士会関西会・日本公認会計士協会近畿会・大阪弁護士会(三会)
テ ー マ: 企業活動と経営戦略
     〜事業戦略・研究開発戦略・知的財産戦略の三位一体戦略に関する事例研究〜

活動報告書:https://www.kjpaa.jp/seminar/59131.html